そば屋は儲かるのか?


 『老後に自分のそば屋を開業したい。』そう考える男性サラリーマンは近年増えてきています。

 確かにそば打ちは、どんどん上手くなっていく達成感があったり、こだわりのそば粉や薬味、揚げたての天ぷらにこだわったりと、『自分ならこんなそば屋をやりたい。』と夢が膨らむものです。

 しかし、そんな理想とは裏腹に、廃業率が高いのもそば屋の特徴です。なんと1年後の廃業率は、70%と他の飲食店と比べてもかなり高い数値なのです。


 今回は、そんなそば屋ビジネスの初期費用や『原価率』などを分析し、本当に儲かるのかどうか見ていきます。


1年後の廃業率はなんと70%!!


 そば屋の廃業率は、他の飲食業界と比べても圧倒的に高く、1年以内に70%が廃業しています。

 実際に現在経営されている蕎麦屋のうち、たったの30%しか黒字経営が出来ていません。

 たしかに老後の道楽で始めようとする人が多いのも事実ですが、かなり難しいビジネスモデルであることは間違いないでしょう。


そば屋の原価率は20%!?


 そば屋の『原価率』は平均すると20%です。

 これは、飲食店の平均的な『原価率30%と比べて、かなり低く、ビジネスにおける優位点の一つと言えるでしょう。


 原価のメインは、そば粉(原価50円)出汁(原価15円)です。(もちろん、ビジネス街の立ち食いそばと高級料亭のような佇まいのそば屋ではまったく違います。)

 よって、シンプルな立ち食いそばなら、300円で販売しても十分に経営が成り立ちます。


立ち食いそばは儲かる!!


 そば屋特有の販売方式に『立ち食いそば』があります。

 座って食べる方式より、立ち食いの方が、お客さんもゆったりとしないため、回転率が高くなります。

 ファミレスの場合、食後にデザートを頼んで、一時間おしゃべりをしていることも普通にあります。その間に『立ち食いそば』なら、4-5回お客さんを回せるでしょう。



 同じ価格なら回転率が高い方がたくさん売れるので、利益を出しやすくなります。

 一時話題となった『いきなりステーキ』が繁盛したのは、この形態を採用したからです。

 ハンバーグ定食を作ることに比べれば、そば単品ならすぐに作ることが出来るので、立ち食い形式との相性も良いです。


そば屋の一日の売上


 『厚生労働省』のデータによると、そば屋専門店の一日の平均客数は32.4人客単価は1,116円です。


 この数値は立ち食い形式ではなく、座敷に座って食べるようなお店の数値でしょう。

 天ぷらや、お酒、だし巻き玉子のようなおつまみも込みの金額なら客単価1,000円以上も無理ではありません。


 単純計算で一日の売上は、約36,000円です。ここから経費が引かれていきます。


ひと月の経費は62万円


 先程の計算によると、1ヶ月の売上108万円

 そば以外の商品も販売しているでしょうから、『原価率』を25%で設定してみます。その場合、原価27万円です。


 続いて人件費や家賃、電気ガス水道等の諸経費を計算します。老後の独立ということで、今回は、夫婦2人のみで経営することとします。

 家賃20万円電気代等10万円その他5万円かかるとします。人件費は夫婦経営のためゼロです。

 以上をまとめると、(売上108万円)ー(経費62万円)=46万円が夫婦ふたりの利益となります。


 長い営業時間や、仕込みの時間、仕入れや経理の時間も含めると、おそらく最低時給は割っているでしょう。


そば屋経営の初期費用


 そば屋を始めるには多額の初期費用がかかります。一般的には、最低でも1000万円は必要です。

 物件取得費や厨房機器、テーブルや椅子などの飲食業でも必要なものがそば屋でも必要になります。そば屋ならではの機器としては、石臼そばを茹でる釜が高額です。



 しかし、ほとんどのケースにおいて一番高額になるのは、物件取得にかかる初期費用です。

 我々に馴染みのあるアパートの賃貸契約では、敷金礼金ゼロというものも一般的になってきましたが、このような物件の場合、敷金(保証金)だけでも6-12ヶ月分が相場で、最低でも家賃の1年分は必要になります。


 また、夢や理想があってそば屋を始める場合、内装や食器類までこだわってしまい、想定以上に高額になってしまうケースもあるようです。

 ビジネスにおけるイニシャルコストは、そのままその先の経営の安定性にも繋がるため、極力少額に抑えて、利益が出てから、細部にこだわっても良いのかなという印象です。


手打ち蕎麦か機械打ち蕎麦か


 老後に独立してこだわりの蕎麦屋を開こうと考える場合、多くの人は手打ち蕎麦を検討するでしょう。

 手打ち蕎麦なら、のぼりや旗で『手打ち』をアピールする集客効果が見込めるかもしれません。



 しかし、手打ちを行うには早朝から準備を始めるなど時間が削られることや、一日に販売出来る量に制限がかかります。

 また老後に行う場合は、体力的な面も考えると、手打ちを続けることは難しいです。

 そして、最近の機械はかなり進歩しているようで、手打ちにも負けないようなクオリティの蕎麦が出来るそうです。


 よって、経営の観点から言えば、手打ちより機械打ちの方がメリットが大きいでしょう。


天ぷらそばで利益率アップ


 そば屋は、『かけそばばかり頼まれると利益が出ない』と言われています。

 たしかに、原価60円で定価300円なら原価率20%ですが、1杯売って粗利益240円にしかなりません。



 そこで多くのそば屋は、"揚げたての天ぷら"に力を入れています。

 天ぷらは高級なイメージがありますが、野菜やエビの原価は20-30円ほどなので、150~200円で売れば、簡単に利益額を上乗せ出来るのです。

 その他におにぎりも、原価率が低く作るのも簡単なため、導入しているそば屋が多いです。



 いかに"そば単品の客"を作らないかに、そば屋経営の成否がかかっていると言っても過言ではないでしょう。


そばの有名な5つの都道府県


その1:長野県(信州そば)

 『そばと言えば長野県』そう考えている方も多いでしょう。

 人口あたりのそば屋の数は日本一で、そばの生産量も北海道に次ぐ第二位です。

 長野県のそばは、"信州そば"と呼ばれています。



 綺麗な水と地元で作られたそば粉を使いシンプルで王道のそばを作りたいなら、長野県で開業すると良いかもしれません。

 ただし、長野県自体は人口の少ない県のため、顧客となるのは主に近隣県からの観光客になるでしょう。


その2:岩手県(わんこそば)

 "わんこそば"は、客が満腹になるまで客の持っているお椀に次々に一口大のそばを入れ続けるエンターテイメント性の高いそばです。

 一説には"わんこそば"は、戦国時代から400年以上の歴史があるそうです。


その3:島根県(出雲そば)

 かつて信州から出雲に国替えした城主がそばを伝えたことが"出雲そば"の由来とされています。

 出雲そばは、そばの実を皮ごと石臼で挽いて作ることで、他のそばに比べて色が黒っぽく香りが強いのが特徴です。

 食べ方も特徴的で"割子そば"や"釜揚げそば"と呼ばれる食べ方が有名です。


その4:京都府(にしんそば・宇治抹茶そば)

 "にしんそば"は、かけそばにニシンの甘露煮を乗せたもので、京都の他にも北海道も有名です。

 "宇治抹茶そば"は、京都で有名な宇治抹茶をそば粉に混ぜたそばで、綺麗な抹茶色のそばが特徴的です。

その5:山形県(肉そば)

 "そば王国"山形にも複数のそばがありますが、"冷たい肉そば"が特に有名です。

 また、山形県全体でそば産業に力を入れており、10店舗ほどが集まった"そば街道"が山形県内の各地にあります。


まとめ:そば屋経営には経営者目線が必要!!


 そば屋は、一見すると『原価率』が低いというメリットがあり、飲食店ビジネスの中でも成功率が高いように感じますが、実際には、それほど利益が残らないというのが、私の感想です。

 また、蕎麦は他の食材に比べて差別化が難しく、素人には味の違いが分かりにくいため、蕎麦粉にこだわるのではなく、居心地のよい空気感・接客を提供したり、例えばそば打ちを見せたり昭和のレトロな空間にしてみたりとエンターテイメント性で勝負したりした方が勝算があるかもしれません。


 『老後に自慢のそば打ちテクニックを披露したい』というような甘い考えでは、一年で廃業することもあるでしょう。

 蕎麦を食べてほしいのに、居酒屋のように利用されることもあるでしょう。

 どの飲食業にも言えることですが、そば打ちの腕より経営者目線の方が重要なのは間違いありません。


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