パン屋は儲かるのか?


 長年に渡り、子供の頃になりたい職業の上位にランクインするパン屋は、脱サラの定番商材の一つになっています。

 実際に全国にパン屋は1万店舗以上あり、その人気がよく分かります。


 しかしその人気とは裏腹に、ビジネスとして考えるとパンは儲かりにくい商材です。

 この記事では、なぜパン屋が儲かりにくいのか。また、儲けるコツについてを解説します。



パン屋の年収


パン屋の年収

 個人経営のパン屋の平均年収は約300万円です。

 会社員の年収と比べるとそれほど悪くないようにも思えますが、早朝の仕込みから夜の閉店作業まで含めると、1日の労働時間は12~15時間ほどにもなるので、時給換算で700~800円くらいになるでしょう。


パンの原価率

 飲食店の一般的な原価率は30%が目安です。

 一方のパン屋の原価率は10~20%とかなり低いです。

 しかしパン屋は廃棄率も高いので、実際の原価率はもっと高くなるでしょう。



パン屋の初期費用

 パン屋の初期費用は、その他の飲食店の初期費用とほぼ同じで、約1,000万円です。詳細は下記のようになります。


パン屋の初期費用
・物件取得費200万円
・内装費300万円
・厨房設備300万円
・その他200万円


物件取得費(200万円)

 商用の物件の取得費は、賃料の10ヶ月分が相場です。

 家賃が月20万円の物件を取得する場合の取得費は200万円が目安です。

 喫茶店や居酒屋などと違い、食事スペースを設ける必要のないパン屋は、やや狭めの物件でも営業出来るメリットがあります。


内装費(300万円)

 物件を取得しても、前の契約者もパン屋でない限り、内装を大幅に工事する必要があるでしょう。


厨房設備(300万円)

 パン屋の厨房設備は、一般的な飲食店と比べて特別な物はありません。

 パンを焼く"オーブン"や、パンを発酵させる"ホイロ"、"大型の冷蔵庫"などが必要になります。

 厨房設備については、一つ一つが高いので、出来るだけ中古で揃えるべきでしょう。

 すべて中古で揃えることが出来れば、300万円で厨房機器が一式揃うでしょう。


その他(200万円)

 その他にもレジ周りの設備や、トングとトレーなど営業に必要な備品を揃えると200万円くらいかかります。



パン屋のメリット


パン屋のメリット1:食生活の欧米化

 2000年頃までは、日本の食卓では和食が定番で米の消費量がパンの消費量の1.5~2倍もありました。

 しかし、近年の食生活の欧米化によりその差は逆転し、現在ではパンが米の消費量を抜いています。

 単身世帯にとっては、米よりパンの方が手軽に食事が取れるので、今後もさらにこの差が広がると予想されます。


パン屋のメリット2:食費が浮く

 パンは主食となるもので、毎日食べても飽きないので、売れ残りを持ち帰り自分で食べれば、食費を浮かせます。

 毎日自分で食べていれば、より客目線で自分のパンを知ることになるでしょう。

 特に経営が安定するまでの1年間は極力生活費をかけないようにするべきなので、毎日自分の作ったパンを食べてみましょう。



パン屋のデメリット


パン屋のデメリット1:仕込み時間

 営業時間が9:00~19:00までの10時間だとしても、朝の仕込みに4時間はかかるため、労働時間は14時間にもなってしまいます。

 販売員については、アルバイトでも対応出来ますが、技術力のいるパンの製造は自分で行う必要があります。


パン屋のデメリット2:高い廃棄率

 パンは、仕込みをしてから焼き上げるまでに時間がかかります。

 もし、途中で売り切れそうなパンがあっても急に作ることは難しいです。

 よって、多少多めに作って廃棄するのが一般的です。


 経営方針にもよりますが、5~10%もの廃棄を毎日することになるので、それにかかる材料費や手間は無駄になっています。


パン屋のデメリット3:小麦の価格上昇

 パン用の小麦の97%は海外からの輸入に頼っています。

 現在の円安と世界情勢の不安や燃料費の高騰などにより、パンの原料である小麦の価格は上昇傾向にあります。

 しかし、日本の商慣習では、原材料の高騰分をパンの販売価格に上乗せすることが難しいので、パン屋で利益を上げるのが難しくなっています。



パン屋のデメリット4:コンビニの台頭

 パンは昔から定番商品としてどのコンビニにも主力商品として置かれています。

 近年では、コンビニ各社のプライベートブランドのパンも増えており、その品質も高く好評です。

 さらには、有名なお店やシェフとのタイアップ商品も毎月のように発表されており、その力の入れようが分かります。


 パン屋の強みである出来立てのパンとコンビニのパッケージされたパンでは、若干の差別化がなされていますが、強力なライバルになっていることは間違いありません。



パン屋で儲けるコツ


パン屋で設けるコツ1:経営者目線を持つ

 パン屋は昔からの夢で始める人の多い世界です。

 そのような夢でパン屋を始めた人の多くは、経営者としての自覚がありません。

 分かりやすい所では、商品一つ一つの価格をなんとなくで値付けしていたり、一日に製造するパンの量を適当に決めていたりしているようでは、長く営業していくことは難しいでしょう。


パン屋で儲けるコツ2:1年分の生活費を用意する

 どのような商売でも、数年で廃業するのは資金ショートが原因です。

 事前に細かい計画を立てずにパン屋を開業してしまうと、売り上げが安定するまでに資金不足になり廃業することになるでしょう。

 最低でも、1年間は無収入でも生活できるだけの生活資金を手元に用意しておきましょう。


パン屋で儲けるコツ3:コンセプトを明確にする

 差別化の難しいパン屋ビジネスにおいて、開業前にコンセプトをしっかりと決めておくことは重要です。

 例えば、スーパーに併設されているパン屋の場合は、主婦が家族に買っていくケースが多いので、安くて種類の多いパン屋が好まれます。



 一方、山の中の一軒家で開業するのに、スーパー併設型と同じコンセプトでは、わざわざ買いに来る人はほぼいないでしょう。

 その場合なら、地元で採れる水や材料で作るこだわりの高級パンをコンセプトにする方が、特別感があり立地とコンセプトが一致します。


パン屋で儲けるコツ4:資格を取得する

 資格があるからと言って必ず美味しいパンが作れる訳ではありませんが、賞状を店頭に飾るだけで箔が付き、客からの信頼感を得られます。


パン屋の資格1:食品衛生責任者

 パン屋に限らず、飲食店を営業するのに必要な資格です。

 直接パンに関わるものではありませんが、店舗経営に必要な知識も得られるので、資格取得の勉強が無駄になることはありません。


パン屋の資格2:パン製造技能士

 パンに関する資格の中で唯一の国家資格で、2級・1級・特級と3段階に分かれています。

 専門学校に通っているなら、卒業後すぐに2級を受験出来ます。

 それ以外の場合は、実務経験2年以上で2級、2級取得後実務経験2年以上で1級、1級取得後実務経験5年で特級の受験が行えます。


 よって、専門学校に通っておらずこれからパン製造技能士の特級を目指す場合は、最短でも9年以上かかることになります。


パン屋の資格3:パンコーディネーター

 パン製造技能士が美味しいパンを作るための資格だとすると、パンコーディネーターはパンを美味しく食べてもらうための資格です。

 新メニューの開発やパン教室の先生など、パン屋にまつわる業務に必要な知識を得られます。

 『パンコーディネーター』『エキスパート』『アドバンス』3つのレベルに分かれているので、アドバンスまで取得しておくと、営業に泊が付くでしょう。


パン屋の資格4:パンシェルジュ

 パンの製造やマナー、トレンドなどパンにまつわる様々な知識を得られる資格です。

 パンシェルジュの資格も3級、2級、1級とランクがあるので、1級まで取得を目指すと良いでしょう。




苦戦している専門店


苦戦している専門店1:高級食パン

 2018年頃からブームになっている高級食パンは、ブームの終焉を迎えており、開業から数ヶ月で廃業に追い込まれたお店もあるほど、閉店が続いています。

 確かに1斤1,000円という話題性もあり、一度は食べてみたいと考える人が多いのも頷けますが、違いの分かりにくい食パンに継続的に1,000円を出したい人は少ないでしょう。

 似たようなお店が乱立したことで珍しさもなくなってしまったのもブームの終焉に追い風となりました。


苦戦している専門店2:メロンパン

 10年に一度くらいのペースでブームになるメロンパンは、近年再びブームの兆しがあります。

 しかし、過去のブームも1~2年で去っており、メロンパン専門店を開いたとしても、初期投資額を回収する前にブームが過ぎる可能性が高いでしょう。



まとめ:パン作りが好きでないならパン屋をおすすめしない


 パン屋は早朝の仕込みから数えると長時間労働になりやすく、その割に平均年収が300万円とかなり低い商材です。

 昔からの夢があったり、本当にパン作りが好きでないと、長く続けていくことは難しいでしょう。

 また、定期的に特定のパンのブームが訪れますが、専門店化してしまうとブームが去った時に廃業しないといけないので、メニューの一つとして販売するくらいに留めておく方が良いでしょう。